研究概要 |
本年度はまずX(M)nX型錯体、具体的にはニッケル5核錯体[Ni_5(μ-tpda)_4X_2](X=Cl, CN, N_3)および、7核錯体[Ni_7(μ-teptra)_4Cl_2]のフルモデル量子化学計算を行った。これらの結果より得られた電子状態の詳細な解析およびJ値の定量的に計算を通じ、架橋配位子や軸上配位子の影響を系統的に考察することを行った。まず、幾つかのaxial配位子モデル(Cl, CN, N_3)の5核錯体において、J値の実験値を定量的に再現することに成功した。さらに、7核錯体においてもJ値の実験値を定量的に再現することに成功した。これは、本研究が世界に先駆けて成功した重要な成果である。また、これらの軌道解析によりaxial配位子の磁気的相互作用に及ぼす影響は、金属-金属結合のなかでも、σ結合を介して現れていることを明らかにした。一方、らせん構造を有する架橋配位子は、δ結合に強い影響を与えており、δ結合自身もらせん構造を有することが明らかになった。これらは、Huckelレベルの計算では決して得られることは出来ず、高精度量子化学計算だからこそ得られた結果である。 加えて、軌道エネルギーの詳細な解析により、配位子による電気伝導性の可能性を示唆した。これは、金属部分で磁性を、配位子部分で伝導性を担う磁性伝導体の可能性を示しており、新規物質設計への重要な指針を提示することに成功した。これは、全く新規なアイディアであり、有意義な成果であると考えられる(現在論文投稿中)。以上のように、本年度は一次元多核錯体の磁性発現メカニズムの高精度量子化学計算による詳細な解析に成功し、その結果より、新規物質設計指針の導出を行った。
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