昨年度より引き続いて行った、ニッケル5核錯体[Ni_5(μ-tpda)_4Cl_2]および7核錯体[Ni_5(μ-teptra)_4Cl_2]の電子状態に関する研究では、電子状態の詳細な解析、J値の定量的な計算および、架橋配位子や軸上配位子の影響の系統的な考察について、投稿していた論文が出版された。また同時に行った、マンガン-TCNE一次元多核遷移金属錯体の電子状態解析も結果がまとまり、こちらも投稿していた論文が出版された。 また、本年度はMMX錯体と称される一群の一次元多核遷移金属錯体についての量子化学計算も実行し、その磁気的な性質について考察した。具体的には、Ni(dta)_4I錯体の内部構造と磁性の関係をクラスターモデルを用いて行った。一般的にPtを使った錯体では、鎖内構造にバリエーションが見られるが、Niを使った錯体ではAVSDW構造と呼ばれる構造しか見つかっていない。そこで、理論計算を用いて他の構造の可能性を探った。しかしながら、やはり他の構造の可能性は発見できず、従来の実験的な結果を支持するものとなった。この結果は国内の学会にて発表している。 上記研究に加え、錯体などの電子状態解析に必要な、基礎理論の構築も同時に行いこちらも論文を出版した。また、生体内に見られる多核遷移金属クラスターの電子状態解析等も上記研究から派生し、こちらも成果が纏まり論文を出版した。 これら一連の研究は、実在系の構造をクラスターモデルに簡約化し、配位子等も含めた大規模量子化学計算を行い、金属イオン種や配位子種などの効果を微視的な視点から明らかにしてゆくというものである。特に、磁気的な相互作用に着目し系統的に研究を行っている点が、世界的にもオリジナルである。 また、邦文論文としては上述の一連の研究成果を、雑誌「固体物理」数巻分にて解説を行った。
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