研究概要 |
4種のジチオレン配位子を含むモノオキソMo(IV)錯体(1:(Et_4N)_2[MoO(mnt)_2],2:(Et_4N)_2[MoO(bdtCl_2)_2],3:(Et_4N)_2[MoO(bdt)_2],4:(Et_4N)_2[MoO(S_2C_6H_8)_2])を用いて、モリブデンの酸化還元と水の酸塩基反応をカップルさせることにより、水を酸素源としたジオキソ錯体の生成を検討した。 錯体1および3は文献の方法に従って合成した。1-4のMo(V)/(IV)の酸化還元過程を測定した結果、2、3、4は可逆な酸化還元波を与えるが、1に関してはMo(V)Oの状態が不安定であることが示された。次に、OH^-との反応性をCVを用いて調べた。2はアセトニトリル中Mo(V)/(IV)の可逆な酸化還元波(E_1)をE_<1/2>=-0.1V(vs.SCE)に示すが、10%^nBu_4NOH/CH_3OHを加えると、E_1は酸化電流の増加と還元電流の減少を伴い、不可逆な酸化波(E_2)へと変化した。OH^-の添加量と電流量の変化をプロットした結果、E_1→E_2への変化はモリブデンに対し2当量のOH^-を消費することがわかった。また、このCV変化は1当量のOH^-と1当量のCH_3O^-を加えても観測されるが、Et_3Nではおこらなかった。2当量のOH^-存在下、+0.2Vで定電位電解をおこない、電流量と吸収スペクトル変化を測定したところ、E_2は2電子酸化過程であり、2aの吸収スペクトルが得られたので、2は2当量のOH^-と2電子酸化により、2aに変化することが明らかとなった。3も同様のCV変化を示した。しかし、強い電子吸引基を持つ1では、OH^-を加えると、錯体の分解を示すCV変化が得られた。また、より大きな電子供与性配位子を持つ4ではOH^-添加によるCV変化は起こらなかったので、配位子による中心金属の酸性度の調整が重要であることがわかった。水由来の酸素のジオキソ錯体への導入を確認するために、2、^tBuOK(2当量)およびK_3[Fe(CN)_6](2当量)を含む水(H_2^<18>O)/アセトニトリル溶液中で反応を行った。得られた錯体のIR、RamanスペクトルによりMo=O伸縮のシフトを確認し、反応溶液および単離した錯体のアセトニトリル溶液のESI-MSにより{[MoO^<18>O(bdtCl_2)_2]+^nBu_4N}^-のピークを確認した。塩基を含まない2および3の水/アセトニトリル溶液を酸化すると、2の溶液からは一電子酸化体のMo(V)Oと2aが得られるが、3の溶液からはMo(V)Oのみが得られ、3aは生成しなかった。このことは、溶液のpH変化により、ジオキソ錯体の生成を制御できることを示している。2aはPPh_3やSO_3^<2->をOPPh_3とSO_4^<2->に酸化し2に戻り、活性中心で進行する反応を再現している。このように我々は、酵素活性中心金属の役割について知見を与える化合物群をつくりだすことに成功した。
|