研究概要 |
安い原料から目的物のみを効率良く得る理想的な新規触媒反応へのアプローチには、従来型触媒の改良とは別に、全く新しい発想の触媒開発も重要であろう。その一法として我々はハライドクラスターの触媒利用を研究している。この物質はバルク金属の部分構造である正八面体配置をとる金属原子団にハロゲンが配位した構造を持つ。金属とハロゲンの組合せで多数の化合物が知られているが、蝕媒としての利用例は皆無であった。しかし、バルク金属のような金属-金属結合を持ちながら金属原子は+1〜+3の中間酸化状態にあるという従来型触媒には無い特徴を生かすことにより新たな反応性の発現が予想される。我々はこれまでにハライドクラスターが適当な加熱処理により例えばオレフィン異性化のような反応の触媒となることを明らかにしてきた。本年度はハライドクラスター触媒の新たな可能性を求めて各種反応を試みた結果、(1)アニリンとケトンの縮合によるキノリン生成反応が進行することを見いだした。さらに、(2)アルキンから共役ジエンやアレンを生成する異性化がヘリウム雰囲気下で進行することも見いだした。これらは固体酸触媒と同じ反応である。一方、(2)の反応を水素雰囲気下で行うと(3)アルケンを生成する部分水素化が進行することを見いだした。これはPdのような白金族金属触媒と同じ反応である。さらに、Moクラスター触媒上で(4)シクロヘキサノンからシクロヘキセンを生成する水素化脱水や、(5)2-シクロヘキセン-1-オンのシクロヘキサノンへの水素化、(6)シクロヘキセンから1,3-シクロヘキサジエンやベンゼンを生成する脱水素が進行することも見いだした。これらも白金族金属触媒特有の反応である。以上から、ハライドクラスターは基質や雰囲気の違いにより様々な様式の触媒活性を示すことが明らかとなった。
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