近年のナノ材料開発研究では、新たな高機能性材料の構築のため、ナノレベルでの化学状態を分析しながら、その表面トポグラフィーを観測する要求が高まっている。申請者は、絶縁試料にも適用可能な手法であるNC-AFM(非接触-原子間力顕微鏡)にX線分光を組み合わせたナノレベル元素分析の開発を行っている。そして、これまでの原理実証実験から、試料元素のX線吸収端付近においてNC-AFMの探針先端と表面との相互作用に変化が生じる事が見いだされた。NC-AFMの理論的研究では、相互作用には分散力、van der Waals力、静電気力などの物理的相互作用力の他、化学結合力も関与していると考えられている。従って、本手法のメカニズムを明らかにするためには、より高精度かつ高感度に力場スペクトルを測定するための現有装置の改良とナノ空間に局在した電場空間におけるエネルギー分析等の測定を行う必要がある。今年度はより高感度、かつ高精度にNC-AFM力場スペクトルを測定するため、ハードウェア及びAFMコントローラの改良を行うことで、これまでに比べ約10倍の感度を実現し、より微小な力場スペクトル変化をより高精度に捉える事に成功した。コントローラの改良後の測定では、これまで観測されていなかったより小さな力場変化成分も観測することができた。これはX線のエネルギーとは無関係であるが、X線照射によって必ず生じていた。これはこれまでバックグラウンドレベルで観測しえなかった成分であり、X線照射による熱拡散過程に伴う探針-試料間距離の微小変動、もしくは二次電子放出・帯電によって誘起された静電相互作用による可能性を現在、検討中である。
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