研究課題
中世イスラーム時代のラスター彩ガラス表面には銅や銀の顔料を用いて製作された赤、黄、褐色の美しい装飾が施されている。これらの発色は金属コロイド粒子によるものとされているが、その存在状態や製作技法の詳細は明らかでない。本研究では、銅や銀の存在状態とナノ粒子の存在を明らかにし、ラスター彩ガラスの復元および当時の製作技法の解明を目的とした。まずステイン顔料を用いて、ラスター彩ガラスの復元実験を行い、製作した復元ラスター彩ガラスについて、TEM測定を行った。一方、X線吸収分光法によりラスター彩ガラス顔料中金属元素の化学状態分析を行った。Cuについては高エネルギー加速器研究機構PF BL-12Cで、Agについては高輝度光科学研究センターSPring-8 BL01B1で、それぞれK吸収端の蛍光XAFS測定を行った。さらに中近東文化センターの所蔵品数点について、同様の測定を行った。復元実験の結果、水素ガスを電気炉に流した還元状態下の加熱により赤の発色が得られた。それ以外では黄や褐色が得られた。このラスター彩復元ガラスの薄片について、TEM観察を行った結果、試料表面の赤色部分からは直径5-50nm程度に成長したナノ結晶が見出された。またその電子線回折から銅と銀の多結晶体であることが示された。一方、黄色部分については、83Kでの電子線回折から、Agの微結晶の存在を示すブロードな回折リングが得られた。また高分解TEM観察を行ったところ、格子像が得られ、5nm程度かそれ以下のAgのナノ粒子の存在が示された。一方、蛍光XAFS測定の結果、黄および褐色部分ではCuは酸化物として存在しているのに対して、赤色部分ではCuは金属として存在していることが明らかになった。Agについては、いずれの試料についても金属銀に類似したスペクトルが得られ、TEMの測定結果と一致した。
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Proceedings of the XX ICG in Kyoto, Sep.27th-Oct.1st (2004)
ページ: O-15-013