申請者は、近傍二核金属錯体を用いた分子状酸素の活性化法に関する基礎的な研究を行った。本年度は、種々の配位子とスペーサーを有する二核ルテニウム錯体の合成を行った。有機合成手法の一つとしての触媒的酸素酸化反応の開発では、選択的な酸化反応を達成するために1気圧の酸素を用いる温和な条件が必要がある。温和な条件下で酸素分子を活性化するためには、二核構造を有する金属錯体の金属-金属間距離を適切に配置させ、さらに、配位子の電子的効果を調節することにより生じる金属間の協同効果を利用することが有効であるという作業仮説に基づき、種々の脂肪族および芳香族カルボキシレート架橋配位子を有する二核ルテニウム錯体の合成を行った。さらに電子的効果を精査するために、カルボキシレート架橋の一つをカーボネート架橋に置き換えた錯体を新規に合成した。これらの錯体の構造は、常磁性NMR、紫外可視吸収スペクトル、IR、元素分析等により、いずれもRu_2^<5+>のコアを有する事を確認した。今回合成した錯体のうち、いくつかは水溶性を有していることが明らかとなった。水中での酸素酸化反応は、有機溶媒中での反応と比べ、安全性が格段に高まることが知られているが、アセテート・カーボネート混合架橋二核ルテニウム錯体は、水を反応溶媒とする均一系酸素酸化触媒として用いることができることを明らかにした。
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