研究概要 |
申請者が先に開発したアキラルSchiff塩基-アルミニウム錯体を用いたラセミラクチドの立体選択的重合反応がどのように起こるのか、錯体のX線結晶構造解析、-1H,^<13>C NMR、およびかさ高い置換基を導入することで立体選択性が高くなるという実験的知見から、鏡像異性体を識別する反応機構モデルを提唱した。 この重合触媒は、大きな置換基を導入するとラクチドの重合速度が低下する。これに対してモノマーにε-カプロラクトンを用いて重合を行うと、立体的に大きな置換基を導入すると重合速度が大きくなった。この興味深い現象に着目し、ラセミラクチドとε-カプロラクトンとの共重合反応を試みることにした。一般に、ラクチドとε-カプロラクトンとの共重合では、ラクチドの単独重合生が高く、ブロック共重合体となることが知られており、ランダム共重合の合成は極めて困難であるとされてきた。申請者が開発した重合触媒を用いたラセミラクチドとε-カプロラクトンとの共重合では、極めてランダム性の高い共重合体を合成することに成功した。これは、単独重合生の高いラクチドの重合速度を低下させ、かつε-カプロラクトンの重合速度を高めることにより、ラクチドの反応性比とε-カプロラクトンの反応性をほぼ同程度に制御することに成功したためである。ポリラクチドは生体内での分解・吸収が速く、ポリ(ε-カプロラクトン)の生体内での分解・吸収は遅い。一方、ポリラクチドは土中での生分解性が遅く、ポリ(ε-カプロラクトン)の土中での分解・吸収は速い。容易なランダム共重合体の合成法は、ポリラクチドとポリ(ε-カプロラクトン)との中間の性質を持たせることが可能となり、生医学材料や環境調和型材料としての応用が期待される。
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