本研究では、高スピンポリラジカルとしてアリールアミニウムラジカルを有したポリアセチレンを新しく合成し、ESR測定により電子状態を、SQUID・電気伝導度測定により磁気・半導体特性について明らかにすることを目的とした。 アミン・アミニウムラジカル間の電子移動に基づく新規有機ラジカル電池の創製を目指し、ジフェニルアミノ基を有したポリアセチレンを合成した。主鎖の共役高分子としてポリアセチレンを選択することにより、ラジカル間の距離の短縮、スピン密度の増大およびそれに伴うより強いスピン間の相互作用の実現が可能となる。ビス(4-メトキシフェニル)アミンとブロモ(トリイソプロピルシリル)アセチレンのパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応によりエチニル基を構築後、シリル基の脱保護によりモノマーを合成した。モノマーの重合には、塩化タンタル、塩化ニオブなどの遷移金属触媒を適用し、分子量数千のポリ(ジアニシルアミノアセチレン)を得た。アミン・アミニウムカチオンラジカル間の酸化還元の反応速度を算出するためモデル化合物としてトリス(4-メトキシフェニルアミン)を選択し、種々の電気化学測定を実施し、非常に速い電子移動を明らかにした。化学酸化して得られたポリ(ジアニシルアミニウムアセチレン)の低温ESR測定では、g=2領域に禁制遷移が観測され、多重項状態が観測された。SQUID磁化測定ではスピン量子数S=5/2が観測され、ポリアセチレン共役主鎖を介した強磁性的な相互作用の発現も明らかとなった。得られたポリアセチレンを含む炭素複合電極を対象に、ピーク電位巾の狭い酸化還元波を観測し、可逆なレドックス能を明らかにした。主鎖ポリアセチレン骨格へのメチル基の導入によりポリラジカルは安定性の向上にも成功し、ポリ(ジアニシルアミノアセチレン)の二次電池正極材料としての有効性が見出された。
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