触媒酸化反応はこれまで著しく発展し、化学工業にとって欠くことのできない存在となった。今後もその重要性はさらに増すと予想されるが、残された触媒酸化反応の多くは難度が高くなっている。これら高難度選択酸化反応を成し遂げる触媒開発には原子・ナノレベルでの触媒構造構築と機能構築が重要と考えられる。 アクリル酸類の合成において、工業的触媒として用いられているリンモリブデートは、モリブデンを主成分としリンを含む分子性複合金属酸化物である。このリンモリブデートの触媒設計法の確立を目的とし、原子レベルでの構造制御法の開発を行った。 平成16年度はリンモリブデートの1つの金属を2価遷移金属に置換した化合物の合成と、単離条件によってその2次構造(立方晶および正方晶構造)の制御が可能であることを見出した。平成17年度は本反応を溶液および固体31P-NMR、IR、ラマン分光法、元素分析、およびX線構造解析により詳細に分析することにより以下のことを明らかにした。 (1)原料リンモリブデートと2価遷移金属を水溶液中で反応させた際、原料と目的生成物は平衡状態にある。 (2)目的化合物をセシウム塩として単離して得られる立方晶構造体は目的化合物と原料との混合物である。 (3)正方晶体は目的化合物が高純度で含まれている。また、その正方晶体の単結晶構造解析に成功した。水溶液中ではモリブデン化合物の安定性は低いので、同様の構造および電荷を有するタングステン化合物を別途モデル化合物として合成し、単結晶の育成および構造解析することに成功した。
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