研究概要 |
ナノ空間を有する結晶性固体の創製は,空間が表面とは異なる分子凝集場を与えるといった学術的観点,高効率な物質貯蔵・変換プロセスを可能とするといった工業的観点より興味深い.本年度は,アニオン性金属酸化物クラスターであるポリオキソメタレートを構成ブロックとしたイオン性結晶の格子内に,形状が制御されたナノ空間を構築することを目的とした.Dawson型ポリオキソメタレート[α-P_2W_<18>O_<62>]^<6->及び一部の[WO_6]ユニットを[VO_6]ユニットに交換した置換体(D_<3h>対称)と,マクロカチオン[Cr_3O(OOCH)_6(H_2O)_3]^+(D_<3h>対称)との複合化を行い,ポリオキソメタレートの対称性及び負電荷の違いが,複合体の結晶構造や分子収着特性に与える影響を検討した. 得られた複合体(NH_4)_4[Cr_3O(OOCH)_6(H_2O)_3]_2[α-P_2W_<18>O_<62>]・15H_2O [1a],(NH_4)_5[Cr_3O(OOCH)_6(H_2O)_3]_2[α_2-P_2VW_<17>O_<62>]・15H_2O[2a],(NH_4)_7[Cr_3O(OOCH)_6(H_2O)_3]_2[α-P_2V_3W_<15>O_<62>]・15H_2O[3a]及びこれらの無水物1b-3bはハニカム構造を有し,複合体の構成イオンの対称性(D_<3h>)が結晶構造(hexagonal, P6_3/m)に反映された.複合体1b-3bのa(b)軸長はほぼ同様であったが,c軸長及び空隙径は1b>2b>3bの順に,ポリオキソメタレートの負電荷が大きいほど縮小した.これは構成イオン間のイオン結合が強くなったためと考えられる.次に複合体1b-3bの分子吸着特性を検討した.相対圧0.7における1bの水吸着量の経時変化は一次の速度式で再現され,得られた速度定数は空隙内への水分子の拡張に対応すると考えられる.一方,複合体3bの水収着量の経時変化は速度定数の異なる一次式の重ね合わせで再現された.それぞれの過程は,空隙内への水分子の拡張と拡散に伴うc軸長の伸長に由来すると考えられる.また,複合体1bは約10mol mol^<-1>のエタノールを収着し,2bは高蒸気圧で約2.5mol mol^<-1>のエタノールを収着し,3bはエタノールを全く収着しなかった.このような複合体1b-3bの水及びアルコール収着特性の違いは,空隙サイズの違いにより説明できた.
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