研究概要 |
極低温まで金属性を有する[Ni(tmdt)_2]や、SDW反強磁性相転移温度以下でもFermi面の存在が示唆される[Au(tmdt)_2]に化学的な修飾を施した。、分子間相互作用の強化を期待してTTF骨格内の硫黄原子を部分的にセレン原子で置換した[M(tmstfdt)_2](M=Ni,Au)を作成した。[M(tmstfdt)_2]の黒色微結晶についてSPring-8の放射光ビームラインBL02B2を用いてX線粉末回折実験を行った。得られた[M(tmstfdt)_2]のX線粉末回折パターンは硫黄類縁体[M(tmdt)_2](M=Ni,Au)の場合と同様で、これら錯体の結晶構造は同形であることが判った。MEM/Rietveld法を採用して[M(tmstfdt)_2]の構造決定を行った。[M(tmstfdt)_2]は分子半分が結晶学的に独立で、分子構造は分子全体を通してほぼ平面であった。単位格子中には一分子のみが存在し、結晶中には二次元(M=Ni)もしくは三次元(M=Au)的なカルコゲン接触網が発達していた。[M(tmstfdt)_2]の加圧成形試料の電気抵抗を調べた。室温伝導度は100S・cm^<-1>(M=Ni)、11S・cm^<-1>(M=Au)と大きな値を示した。特に、M=Niの場合には50K付近まで金属的伝導挙動を示し、この錯体は低温部においても高伝導性[σ_<4.2K>/σ_<rt>【approximately equal】1]であることから、本質的には低温部まで金属であると考えられる。[M(tmstfdt)_2]の室温静磁化率は1.8x10^<-4>emu・mol^<-1>(M=Ni)、3.0xl0^<-4>emu・mol^<-1>(M=Au)であり、硫黄類縁体の場合と較べると小さく、セレン原子を導入した[M(tmstfdt)_2]でバンド幅の増大が示唆された。[Ni(tmstfdt)_2]の静磁化率は50K付近までPauli常磁性的で、その伝導挙動を支持する結果が得られた。
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