研究概要 |
光合成では、酸素発生錯体(Oxygen Evolving Complex;OEC)とよばれるマンガン蛋白が酵素となり、水の酸化による酸素発生を実現している。OECはMn_4O_xCaCl_yの化学組成を有することが知られているが、その化学構造の詳細および酸素発生機構は明らかにされていない。これまでOECモデルとして多くのマンガンオキソ錯体が合成されているが、触媒化学的に水から酸素を発生させた例は報告されていない。申請者は、末端水配位子を有するμ-ジオキソ二核マンガン錯体(1)を合成し、Ce(IV)酸化剤を用いて1の水の酸化触媒能を研究した。錯体1とCe(IV)酸化剤を水溶液中で反応させても全く酸素を発生しなかったのに対し、1をカオリンやモンモリロナイトなどの粘土化合物に吸着させることにより、1が触媒として働き、水から酸素が発生することを見出した。触媒機構を明らかにするために、錯体吸着量を変えて酸素発生速度を測定した。反応初期の酸素発生速度(V_<O2>/mol s^<-1>)と錯体1濃度の関係が二次依存性を示したことより、錯体1の二分子が関与した協同触媒作用により水から酸素が発生したと考えられる。1による水の酸化触媒反応で末端水配位子が重要であると考え、末端水配位子を持たないμ-ジオキソニ核マンガン錯体(2)を合成して2とCe(IV)酸化剤との反応を研究した。錯体1を用いた場合と比較して酸素発生量は著しく小さかった。これより末端水配位子が酸素発生機構で重要であることが立証され、末端水配位子からなるマンガニルオキソ基の分子間カップリングからO-O結合を形成し酸素分子を生成する機構が提案された。この成果を発展させて、ピリジル基を金属イオンへ配位させ、錯体それ自身を配位集積化させることをねらい、新規なOECモデル錯体である[Mn_2(O)_2(pyterpy)_2(OH_2)_2]^<3+> (pyterpy=4'-(4'''pyridyl)-2,2':6',2''-terpyridine)(2)(Fig.1)を合成し、2の酸素発生触媒能、電気化学特性および金属イオンによる配位集積について研究した。
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