研究概要 |
ビタミンB12依存性酵素のCo(I)種は超求核性を有し、様々な有機塩素化合物と反応しコバルト-炭素結合を有する有機金属錯体を与える。その結合は可視光により容易に開裂するため、コバルト錯体を利用した高効率な脱ハロゲン化触媒プロセスを構築することが期待できる。本研究では、脱ハロゲン化反応を行うビタミンB12酵素に着目し、その機能モデル錯体と酸化チタンを複合したハイブリッド触媒を作成し、有機ハロゲン化合物のクリーンで高効率な分解プロセスを開発した。具体的には、酸化チタンの表面にビタミンB12錯体を固定化したハイブリッド触媒を作製し、光駆動型脱塩素化反応を開発した。さらに本性質を利用し、有機ハロゲン化物を基質としたユニークなラジカル型有機合成反応(Ph基転位反応)の開発にも成功した。本反応の選択性は溶媒の水素ラジカル供与性に依存し、水素ラジカル供与能に低いベンゾニトリル中では選択的に目的とするPh基転位体が得られた。これらの反応は、酸化チタン伝導帯の励起電子の還元力を利用しビタミンB12のCo(I)種を生成させ、基質となる有機塩素化合物との求核反応によりアルキル錯体が中間体として生じ、続いてアルキル錯体のコバルト-炭素結合の光開裂により触媒であるCo(II)錯体が再生すると推定される。そこで酸化チタン上での本ハイブリッド触媒の反応機構を明らかにするために、ESRにより詳細に解析したところ、酸化チタン上に固定化したビタミンB12のCo(II)種に由来する信号が観測された(g=2.31,2.00,A=109G)。そこに光照射すると、Co(II)種に由来する信号が減少し、また光照射を止め空気にさらすと、再び元のCo(II)種の信号が観測された。以上の変化はESRサイレントなCo(I)種の生成を示しており、酸化チタンへの光照射により触媒活性なCo(I)種が生成していることを示唆している。
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