研究概要 |
従来の単分子磁石は、ポリメタル錯体により構成されており、合成上の問題から系統的なスピン量子数(S)と活性化エネルギー障壁(ΔE)、トンネル速度(k_d)についての関係が明確に議論されていない。我々の分子設計に従って構築される有機スピン源を持ったモノメタル単分子磁石では、有機スピンのSを自在に変えることができる結果、単分子磁石のSをコントロールできる。 今年度は予定どおり、様々なSを持つ有機配位子の合成に成功した。それらは、ジアゾ基を1〜4つ持つモノピリジル化合物であり、光照射により有機スピン源であるカルベンを発生し、S=1〜4を持つ。これらジアゾ化合物を使い、磁気異方性の大きなコバルト錯体と混合する事により、S=33/2、25/2、17/2、13/2、9/2の単分子磁石の構築に成功した。また、安定有機ラジカルであるニトロキシラジカルを持つピリジル化合物とコバルトチオシアナート、イソシアナートとの4:1錯体の剛体溶液中の磁気測定から、30、50Kを持つS=5/2の単分子磁石の構築にも成功し、Chem Commun,1750-1751,2004に発表された。今後は、上記のジアゾ化合物からなる単分子磁石の磁気的性質を詳細に検討して、スピン量子数と単分子磁石の性質の相関を明らかにする。予備的な実験段階ではあるが、Sとゼロ磁場分裂パラメーター(D)との間には相関があり、Sが大きくなるに従って、Dは小さくなる傾向にある。また、大きなSを持つ化合物は、もう一方のゼロ磁場分裂パラメーター(E)をも小さくする傾向にあり、その結果トンネル速度が低下することが解った。来年度は、これら興味深い知見を明らかにするとともに他の遷移金属やランタノイドとの錯体を構築し、新規有機ラジカルを持つ単一単分子磁石の創製を狙っていく。
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