本研究ではこれまで、ナノ細孔を有するカルボン酸鉄(III)、ロジウム(III)、銅(III)、ルテニウム(II、III)錯体を新規に合成し、それらをアルコールの酸素酸化や過酸化水素酸化、オレフィンの水素化、可視光照射によるメタノールの光分解および炭化水素の光酸素酸化などの様々な触媒反応に応用して優れた活性や特異な反応挙動を見出してきた。本年度は、不斉触媒反応への応用を目指して、光学活性な配位子を用いた新しい集積型カルボン酸銅錯体の合成を行った。具体的には、(+)-樟脳酸、蟻酸銅(II)四水和物、ビラジンを純水とエタノールの混合溶液に溶解し、室温で自然濃縮することで調製した。得られた化合物の構造および組成は、単結晶X線構造解析、元素分析、FT-IR、UV-vis、熱分析等のキャラクタリゼーションで確認した。その結果、架橋部位の銅サイトは二核構造を保持していることがわかった。さらに、得られた化合物の表面積・細孔径分布測定および気体吸蔵測定から、この化合物は均一なナノ細孔を有しており、窒素ガスを多量に吸蔵することが分かった。また、得られた化合物がキラルな細孔を構築しているかを確認するため、(dl)-2-ブタノールによる光学分割も行った。その結果、(-)-R-2-ブタノールが細孔内に吸蔵されていることが分かった。今後、不斉触媒反応へ応用して、その成果を学術論文や学会にて発表する予定である。
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