エネルギー問題に対する社会的要求に化学の手法を用いて応えるべく、本研究では、高い性能を示す有機光電変換素子(有機薄膜太陽電池)の新しい設計指針を提案することを目的として、超分子化学的発想により複合的な光電子機能を示す有機分子集合体の創成を試みている。その基本的分子設計指針として天然に見られるベクトル的電子移動を模倣することに加え、光反応1次過程からの速やかな電子・ホールマイグレーションの実現を短期的目標として研究を進めている。 本年度は、光誘起電子移動の定量的評価をおこなうために、近赤外波長域の時間分解測定が可能なナノ秒レーザーフラッシュフォトリシス装置の構築をおこなった。さらに、電子受容能が高く、酸化還元反応に比較的安定な有機色素であるフラーレン誘導体を用いた分子集合体を調製し、単一分子では見られない、分子集合体ならではの光電子機能の発現を過渡吸収測定により観測することに成功した。具体的には、フラーレン誘導体の微粒子を調製し、各種電子供与性分子との溶液内光誘起電子移動を行ったところ、フラーレンのアニオンラジカルの生成が確認され、一般の溶液内電子移動系とは異なる機構での電荷分離状態の長寿命化、光励起状態の短寿命化が明らかとなった。この結果から、デンドリマー骨格を利用すれば、さらに高度に制御された光機能性分子集合体の構築が可能となることが示唆されたため、合成化学の手法を用いて現在実験を進行させている。具体的には、デンドリマーを利用して電気化学的に活性な分子を適切な距離を持たせて球殻状に配置し、ユニット間電子移動を起こすことによる光誘起電荷分離の長寿命化を試みている。
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