本年度は、R.pickettii T1由来のPHB分解酵素とバイオポリエステル表面との間に働く相互作用をAFM法により評価する系の構築を目的とした。先ずPHB分解酵素の基質吸着部位の大腸菌内での発現条件の検討と精製法の確立を行った。吸着部位のN末端に6個のHis残基を付加させたタンパク質(His-tag吸着部位)の発現を行った。効率よく大腸菌内で発現させる系を構築することに成功した。その後、Ni-IDAカラムおよび疎水性カラムを用い精製することで、目的タンパク質を得た。得られたHis-tag吸着部位は、ニトリロ三酢酸(NTA)基を末端に有する化合物を介して、金コートされたAFM探針表面に固定化することにした。金表面へのNTA化合物の結合、Niイオンの配位、その後のHis-tag吸着部位の配位結合と、目的タンパク質が金表面に固定化されたことを確認した。AFM探針表面にHis-tag吸着部位を固定化させ、実際にバイオポリエステル(PHB、PLLA)表面に対するフォースカーブ測定を液中にて行った。PHBやPLLAとの間のフォースカーブ中には複数のピークが認められた。一方、His-tag吸着部位を固定化させていないAFM探針の場合、単一のピークのみしか認められない。目的タンパク質を固定化させたAFM探針をイミダゾール処理し、同様にフォースカーブ測定を行うと、単一ピークのみ観測された。フォースカーブ中の複数のピークは、多数のタンパク質分子が材料表面への吸着に関与したためである。PHB分解酵素とバイオポリエステル表面との間に働く相互作用を直接評価する系を構築することに成功したといえる。また、非特異的結合を低減させる作用のある界面活性剤存在下或いはポリエチレン表面に対する測定結果より、PHB分解酵素は材料中のエステル結合の存在を認識し、特異的に吸着している可能性があることがわかった。
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