現在我が国を含めて、経済活動の拡大に伴い、地球規模での人や物資の移動が盛んになってきている。これに時期を同じくして日本人渡航者および入国者による輸入マラリアが急激に増え、特に1980年代より熱帯熱マラリア(Pf)の症例増加が顕著である。マラリアは熱帯地域を中心に蔓延し、日本人の感染例も増えつつある世界最大の寄生虫感染症である。我々はこれまでにマラリアワクチンを目指して熱帯熱マラリア原虫由来酵素、エノラーゼに注目して研究を行ってきた。最近行われたヨザルに対する動物実験の結果、酵素部分配列Ala256-Asp277(AD22)を含む多抗原ペプチドがワクチン候補として有用であると明らかにされた。 (AD22:Ala-Ser-Glu-Phe-Tyr-Asn-Ser-Glu-Asn-Lys-Thr-Tyr-Asp-Leu-Asp-Phe-Lys-Thr-Pro-Asn-Asn-Asp) 本研究の目的はワクチン実用化への化学的な検討であり、具体的には以下の2点を検討する。一つは(a)実用的なワクチンペプチドの合成研究(水溶性の向上、大量合成法)であり、もう一つは(b)ワクチンペプチドの作用機序(ワクチンペプチドとIgG抗体の分子認識構造の解析)である。 (a)実用的なワクチンペプチドの合成研究 これまでに目的配列の一つ、Glu-Glu-Glu-Glu-AD22-Gly-Glyの合成に成功し特許出願を行った。ここで、N末端側のGlu残基は水溶性の向上、C末端側のGly残基は高分子量化の際に立体障害を緩和するスペーサーとして働く。現在合成法と水溶性の改善を行っている。 (b)ワクチンペプチドの作用機序 ワクチンペプチドとIgG抗体の分子認識構造の解析を目的としてワクチンペプチドのNMR測定を開始した。現在15N-同位体標識したワクチンペプチドの合成と3次元NMR測定が進行中である。
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