本年度は、Ce(IV)/EDTA錯体を用いた基質一本鎖DNA(数十量体)のギャップ部位選択的加水分解を発展させ、より効率的なDNA切断手法の開発を行った。具体的には、ギャップ近傍にCe(IV)/EDTA錯体を濃縮し、切断効率および選択性を高めること目指した。Ce(IV)/EDTA錯体の配位子としてはリン酸モノエステルを選択し、ギャップを形成させるDNAの末端に導入することで、ギャップ近傍にリン酸モノエステルを位置させた。ここに、Ce(IV)/EDTA錯体を加え切断実験を行ったところ、未修飾DNAを用いて形成したギャップと同様にギャップ部分での選択的な切断が実現した。さらに、その切断効率は未修飾のギャップと比較して10倍以上も高効率であった。また、切断断片について詳細に検討したところ、切断末端は天然の制限酵素と同様の様式(3'-OH、5'-リン酸)であることが明らかになった。そこで、人工酵素制限酵素による切断断片(数十量体)と外来のDNA(数十量体)との天然の酵素(リガーゼ)による連結反応を行ったところ、期待通りに2つのDNAの結合反応が進行した。 今回開発したリン酸モノエステルを導入した人工制限酵素系は切断活性が高いために、数千塩基程度のDNAの遺伝子操作に対しても有効であることが期待される。そこで、長鎖DNAとしてGFP遺伝子を選択し、GFP遺伝子をBFP遺伝子に組み換えることを試みた。その結果、設計通りにGFP遺伝子の人工制限酵素による切断断片とBFP由来の外来DNAとがリガーゼにより結合出来ることが明らかになった。これらの結果は、遺伝子工学やゲノム機能解析などの次世代ツールとして、今回開発した人工制限酵素が有効であることを強く示唆するものである。
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