光線力学治療は光増感剤を癌患者に投与し、光増感剤が取り込まれた腫瘍組織に光照射を行うことにより、腫瘍を壊死させる方法である。現在、光線力学治療用の光増感剤としてポルフィリン誘導体であるフォトフリンが用いられている。しかし、フォトフリンは腫瘍選択性が低いこと、組織透過性の良い長波長領域の光の吸光係数が小さく、深部の腫瘍の治療には適さないという欠点がある。そのためフォトフィリンを用いた光線力学治療は治療効果が低く、副作用である光線過敏症を起こしやすいといった問題があった。そこで本研究では光増感活性が高く、腫瘍選択性をもった抗体結合型光増感剤の開発を目的とし、抗体結合型のクロリンe6(Ce6)を調製した。Ce6は水溶液中で単量体として存在するため、高い光増感活性が期待される。抗体一分子当たり約11個のCe6が結合した抗体結合型Ce6を調製した。また、抗体結合型Ce6はCe6と比較して飛躍的に高い取り込み量を示した。これは抗腫瘍抗体が腫瘍細胞を認識したために高い取り込み量を示したためと考えられた。細胞内での局在部位を調べた結果、Ce6は細胞膜に蓄積したのに対し、抗体結合型Ce6は細胞内に蓄積していた。抗体結合型Ce6の光増感作用を調べた結果、抗体に結合したCe6は結合していないCe6と比較して、一重項酸素の生成量は低いことが分かった。しかし、光照射による光毒性を調べたところ、抗体結合型Ce6はCe6と比較して高い光毒性を示した。これは抗体結合型Ce6が効果的に細胞に蓄積したためと考えられる。
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