当研究室で開発されたベシクル型有機-無機ナノハイブリッド「セラソーム」は、その表層に原子厚みのシリカ骨格を有しており、従来のベシクルと比較してはるかに高い構造安定性を持つナノカプセルである。一方でシリカ表面を持つ材料は骨の主要無機成分であるヒドロキシアパタイトに対する親和性が高いことが知られている。本研究では、表面にシリカ骨格を持つセラソームの骨親和性材料としての有用性を実証することを目的としている。 今年度は、セラソーム表面へのヒドロキシアパタイト層の形成について検討を行った。手法としては、ヒトの体液と同様の無機イオン組成を持つ擬似体液を用いた、生体類似環境下でのヒドロキシアパタイト形成プロセスを利用した。セラソームの高い構造安定性を活かし、セラソームを固体基板上に集積化し、その基板を擬似体液に浸漬した。浸漬後の基板表面について走査型電子顕微鏡観察、エネルギー分散型X線分析、X線回折測定などを行うことよりヒドロキシアパタイト形成を評価した。その結果、擬似体液に浸漬することでセラソーム表面にヒドロキシアパタイトの形成が確認され、一週間の浸漬により基板全面をヒドロキシアパタイトの結晶で覆うことが可能であることがわかった。すなわち、セラソーム表面のシリカ骨格は擬似体液からのヒドロキシアパタイトの不均一核形成を誘起することが明らかとなった。さらに、セラソームが脂質の分子集合体である特徴を活かし、セラソーム形成脂質とカルボキシル基を持つ脂質分子とを混合したセラソームを作製し、それらに対するヒドロキシアパタイトの析出について検討を行った。その結果、セラソーム表面にカルボキシル基を提示することにより、ヒドロキシアパタイトの形成が促進されることがわかり、現在さらに詳細な検討を続けている。これらの成果はセラソームの骨親和性ナノカプセルとしての可能性を強く支持するものである。
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