本研究の目的は、当研究室で開発された高い構造安定性を持つベシクル型有機-無機ナノハイブリッド「セラソーム」の骨組織親和性材料としての可能性を明らかにすることである。セラソームはその表層に原子厚みのシリカ骨格を有するため、骨の主要無機成分であるヒドロキシアパタイト(HAp)に対する親和性が高いと期待される。昨年度までに、ヒト体液と同様の無機イオン組成を持つ擬似体液を用いた生体類似環境下でのHApの形成を評価することで、セラソーム表面がHApの不均一核形成および結晶化を誘起することを明らかにしている。 今年度は、セラソーム表面でのHAp形成における、表面官能基の効果について詳細な検討を行った。HAp構成元素の一つであるカルシウムイオンを捕捉可能なカルボキシル基を頭部に1個または2個持つ脂質を合成し、それらとセラソーム形成脂質との混合比を変えることでセラソーム表面の官能基組成を変化させ、組成の違いがHAp析出能に与える影響について検討した。その結果、セラソーム表面へのカルボキシル基の提示によりHApの析出が促進されることがわかり、頭部に2個のカルボキシル基を持つ脂質においては1モル%という低含量においても促進効果がみられた。1個のカルボキシル基を持つ脂質においても、膜中の含量が5モル%以上では2個のカルボキシル基を持つ脂質と同様の促進効果を示した。これらの結果から、適切な表面デザインをすることによりセラソーム表層へのHAp析出を制御できることが明らかとなった。本研究で得られた表面がHApで修飾されたセラソームは、骨組織指向性の薬物キャリアや物質保持能を持つ構造安定な人工骨セメントの添加剤などの応用が期待される。本研究で示した表面修飾セラソームの設計概念はHApに限らず他のバイオミネラル析出系にも拡張できると考えられ、今後その実証に向けて更なる検討を進める予定である。
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