本年度は、安全かつ再現性よく造血幹細胞を増幅させるシステムの開発を目指し、既知の造血増幅因子を材料基板上に再構築することで人工フィーダー細胞層として働くような培養基板を作製した。造血増幅因子としてnotch-ligandとSCFに注目し、イムノグロブリンのFc部位を導入したキメラタンパクであるdelta-1やSCF-Fc融合タンパクの細胞培養用シャーレへの固相化方法の検討を行った。これらの融合タンパクは、抗IgG(Fc)抗体を利用することで、高い配向性を保ちながら固相化することが可能であった。Delta-1依存性細胞株であるTMD-7はdelta-1を培養液に直接添加した場合は増殖効果がないのに対し、抗IgG(Fc)抗体を利用したdelta-1の固相化により濃度依存的な細胞増殖をすることがわかった。また、SCF依存性細胞株で同様の実験を行ったところ、SCF融合タンパクを培養液へ直接添加するよりも固相化したタンパクはより低濃度で細胞増幅させることができた。 さらに、造血細胞培養のために最適な固定化用マトリックスの検討も行った。既に開発した合成高分子やゼラチンに光架橋性分子を導入した固定化材料に加え、造血幹細胞の増殖に効果があることが報告されているヘパリンやヒアルロン酸などの多糖に光架橋性分子を導入し、造血増幅因子の固定化を試みた。光架橋性分子を導入した多糖でDelta-1を固相化した培養基板では、TMD-7をdelta-1濃度依存的に細胞増殖させることができた。 今後はヒト臍帯血から純化して回収したCD34陽性細胞を開発した基板上で培養する予定である。
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