研究概要 |
昨年度の研究において新しい含セレン縮合多環芳香族化合物として、[1]ベンゾセレノフェノ[3,2-b][1]ベンゾセレノフェン(BSBS)骨格を検討し、2,7-ジフェニル誘導体(DPh-BSBS)が優れたp型有機半導体として作用することを見出していた。 本年度は、まず、DPh-BSBSを用いた有機FET素子の安定性を詳細に試験し、大気中での連続駆動による性能劣化や長期保存での経時変化について実験を行った。その結果、ソース電圧を-100Vに保ったまま、大気中3000回ゲートを掃引してon/offを繰り返したり、1年以上実験室環境に放置しておいても、著しい劣化は認められず、この素子が極めて安定で、DPh-BSBSが実用化に適した有機半導体材料であることが明らかとなった。一方で、この材料を詳細に調査するため、さらには種々の誘導体へ応用するためには、簡便で一般的な合成法が必要となる。そこで、新たな合成法として、2,7ジブロモ誘導体の合成法を開発し、これを用いたアリール-アリールクロスカップリング反応により各種誘導体を導くルートの開発にも成功した。 これに加え、実用的な素子への実装のためには材料の安定性の観点からセレン化合物よりも同じ骨格を持つ硫黄化合物のほうが現実的であるので、2,7-ジフェニル[1]ベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン(DPh-BTBT)の合成を検討し、容易に合成できるルートを確立した。DPh-BTBTを用いた素子も、素子作製時の条件を最適化することでセレン体と同様の高い性能を示し、さらに、素子作製に用いるSi/SiO_2基板の表面処理により、セレン体を凌駕する性能を持つ素子の開発にも成功した。これにより、最高で電界効果移動度1.5cm^2/Vs、on/off比10^9に達するFET素子を得ることが出来た。
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