分子磁性体の中で最近、転移温度が非常に高いことや特異な磁気緩和を示すことから国際的に注目されている三つの物質に対して、精力的な圧力実験を行い、機能性向上の足掛りになる実験事実を収得することに成功した。 (1)構造が既知の金属錯体系の中で最高の自発磁化発生温度をもつMn-Cr系シアノ架橋錯体〔フェリ磁性〕 20GPaまでの磁気測定より、転移温度を70K付近から、5GPa付近で140K付近にまで上昇させることに成功した。また、5GPaまでの構造解析実験から、加圧によって結晶構造は歪み、アモルファス的になるが、相互作用ネットワークは強固であるということ、そして、その変化は圧力に対して可逆的であることを確認し、分子磁性体の分野で初めてGPa領域での磁性と構造の因果関係を追跡することに成功した。 (2)有機ラジカル系で最高の強磁性転移温度をもつ環状チアジルラジカル塩BBDTA・GaCl4 BBDTA・GaCl4のγ相は有機ラジカル系において最高の7.0Kという強磁性転移温度を有するが、この系を1.6GPa近くまで静水加圧することで転移温度を15Kにまで上昇させることに成功した。しかし、加圧による構造ひずみが非磁性相への構造変化をも引き起こし、γ相の存在比率が2.0GPa付近で消失してしまう。γ相の安定性が圧力印加によって減少するが、転移温度を15Kにまで上昇させることができた功績は大きい。 (3)単一次元鎖磁石系Mn-Cr系金属錯体化合物 Mn-Cr系金属錯体化合物において、強磁性的相関が一次元的に働き、磁性イオンの負の異方性がその方向に作用している物質が見つかり、単分子ナノワイヤーとして最近注目を浴びている。この系は磁気秩序を持たないが、極低温域で長時間の磁気緩和を実現するため、有限寿命の中でそれぞれの鎖が磁石として振舞う。この系に静水圧力を印加し、磁気緩和時間の増大を実験的に実現することに成功した。構造の多少異なる3つのモデル物質の実験結果を比較することで、飛躍的機能性向上のための実験的指針を得ることに成功した。
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