本研究では、セリウム(Ce)とチタン(Ti)の複合アモルファスリン酸塩を母体材料として選択し、安全で副作用を及ぼさない全く新規な紫外線防御剤の開発を目指した。金属リン酸塩を選択した理由は、地球上に鉱物として存在するだけでなく、骨や歯の構成成分の一つとしてもよく知られており、人体に対して全く無害だからである。そして、得られた複合アモルファスリン酸塩の組成、構造、形態と紫外線防御能との関係を明らかにし、紫外線防御剤として応用する際に問題となる触媒活性や耐熱性の評価を行うとともに、耐熱性を付与することで化粧品としてだけでなくプラスチック、塗料やフィルムなど、幅広い応用を視野に入れた検討を行った。 開発したアモルファスCe_<1-x>Ti_xP_2O_7リン酸塩の紫外可視反射スペクトルを測定したところ、紫外線(波長400nm以下)を効率よく吸収できることが分かった。また、その吸収波長はTi量の増加に伴い短波長側にシフトするため、組成を変えることで任意に吸収波長を制御できることが明らかとなった。また、実際に製品として用いる際に重要な各試料の触媒活性の評価を行ったところ、アモルファスCe_<1-x>Ti_xP_2O_7には従来の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムに見られた光あるいは熱触媒活性は見られず、皮脂や他の有機物を分解しないことが明らかとなった。 しかしながら、これらの特性はアモルファス状態であるときのみ得られ、結晶化すると失われる。そこで、アモルファス状態の安定化、すなわち耐熱性の付与について検討した結果、リン酸塩中に高価数でリン(P)よりもイオン半径の大きいニオブ(Nb)やタンタル(Ta)を導入し、CeとTiの比を固定したままリン酸塩中の架橋酸素量を減少させることで、少なくとも650℃(添加前に比べ200℃以上も高い温度)まで結晶化を抑制することに成功した。
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