本研究では、分子鎖絡み合い特性を連続的に変化させた超高分子量ポリエチレン・フィルムを作成し、これを溶融延伸した場合の変形過程における構造発現メカニズムをシンクロトロン光源を用いてin-situで明らかにすることを目的とした。 試料として、メタロセン系触媒で重合した粘度平均分子量1.73×10^6および1.07×10^7を有する2種の超高分子量ポリエチレンを用いた。これらを所定の割合で溶液ブレンド、溶融プレス成形することで、分子鎖絡み合い特性の異なるフィルムを作製した。得られたフィルムをSPring-8 BL40B2に設置した高温延伸装置にセットし、融点(135℃)以上の145〜155℃で延伸比10〜30倍まで延伸した際の応力と広角X線回折および小角X散乱像を同時測定した。 応力/歪み曲線はplateau領域を示し、その応力値は高分子量試料を多く含むフィルムほど高かった。延伸開始とともに非晶散乱が次第に配向し、plateau領域の開始点で配向非晶の消失と六方晶への結晶化が同時に起きていた。高いplateau応力を示すフィルムでは、この六方晶は出現した直後から急激に減少し始め、代わりに斜方晶が出現し、次第に強くなっていた。一方、plateau応力の低いフィルムでは、六方晶の発生量自体が少ないため緩やかな転移挙動のみが認められたが、延伸後半で再び六方晶が増加していた。このフィルムが低分子量成分を多く含んでいることを考えると、延伸後半での六方晶の増加は分子鎖絡み合い密度が小さい成分によるものと予想される。すなわち溶融延伸過程においては、分子鎖絡み合い密度の異なる成分の「相分離」が起こると言える。
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