燃料電池へ適応可能な固体電解質膜の例として、"フッ素樹脂系電解質膜"、"スルホン化コポリマー膜"、"伝導体をドープしたハイブリッド膜"などが挙げられる。高性能電解質膜を得るために、膜中に少しでも多くのイオンを導入する事が望まれるが、化学構造の修正による性能向上はすでに限界と言われており、根本的にメカニズムの異なる電解質膜の構築が望まれている。また、膜の繰り返し使用に対する劣化や、膜が膨潤する事に伴う燃料の漏れなどが問題となっており、このような要求から架橋の導入は必要不可欠と言われている。そこで本研究では、ナノ領域のイオンチャンネル構造に加えて、ミクロン領域に及ぶ相分離や架橋構造を二重に制御し、新しいプロトン伝導材料の開発とその精密解析を行う事を本研究の目的とする。 テトラエトキシシラン(TEOS)を代表とするアルコキシシランモノマーおよびその誘導体は、適当な触媒および溶媒存在下でゲルを生成する。ここでヘテロポリ酸の一種であるリンタングステン酸(PWA)を触媒として用いると、PWAが高いプロトン伝導性を有するため、得られる膜はPWAを担持した高プロトン伝導膜となる。本研究では特に材料のミクロ階層構造に着目した研究を行った。すなわち、すでに確立したナノ構造解析に加えて、ミクロン領域における相分離構造を有効に活用する事で、材料選択によるプロトン伝導性能の向上限界を打破する技術の確立をめざした。TEOS/PWA系の多彩なミクロ構造はゾル-ゲル反応によって誘起されるため、その際に用いる重合溶媒の極性は、触媒の効力や置換基の反応性に強く依存する。このような反応誘起プロセスに依存して、様々な架橋構造や相分離構造が得られるため、本年度は非重合性の充填剤として様々なアルコールを用いて、そのイオン伝導特性や構造評価を行った。小角X線散乱法や原子間力顕微鏡画像の画像解析からミクロ構造における特性長を算出し、イオン伝導度との相関関係について検討した。また得られた材料の耐熱性と構造学的要因について検討し、前述の散乱解析との相関関係についても検討した。
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