研究概要 |
N末端にシステイン,C末端にFtsH認識tag(SsrA: A ANDENTALAA)を有するseq-ペプチド(C-(EEL)_<10>-SsrA)をFmoc固相法により調製した。FtsHは大腸菌の形質転換より調製した。FtsHによる基質タンパク質(C-(EEL)_<10>-SsrA,αs-カゼイン)の分解は,電気泳動法を用いて評価した。基質タンパク質が基板上へ物理吸着した表面は,0.5mg/mlαs-カゼイン水溶液にシリコン基板とAu(111)蒸着金を6時間浸した後,十分に水で洗浄して調製した。自然乾燥した後,大気中のタッピングモードAFMを用いて表面の構造を観察した。合成したseq-ペプチドおよびαs-カゼインのFtsHによるトランスロケーションは,C-(EEL)_<10>-SsrAおよびαs-カゼインの分解挙動を電気泳動を用いて評価した。この結果,ATP存在下において,時間の経過に伴いC-(EEL)_<10>-SsrAおよびαs-カゼインに帰属されるバンドが薄くなり,30分後には完全に消失した。一方で,ATPを加えない場合では,バンドの消失は観測されなかった。このことから,FtsHはC-(EEL)_<10>-SsrAおよびαs-カゼインを認識し,ATP存在下においてトランスロケーションすることが示された。一方で,基板上におけるロタキサン型ナノ構造の構築を念頭におき,基質タンパク質の基板上への物理吸着について,AFMを用いて検討した。αs-カゼインの物理吸着表面のAFM観察より,αs-カゼインは,シリコン基板上に所々球状に吸着しているもののその吸着量は少なく,物理吸着しにくいことが示された。また,αs-カゼインはシステイン残基を有することから,Au-S結合により固定することが可能である。AFM観察の結果,Au(111)表面に非常に薄い分子膜類似の状態でαs-カゼインが固定されていることが示された。さらに,QCMを用いて,金表面へのαs-カゼインの吸着量は10.43ng/mm^2,分子占有面積は3.89nm^2/moleculeと算出された。以上の結果より,シリコン基板を用いることにより,基質タンパク質の物理吸着を抑えた基板の作成が可能であること,また,Au-S結合を利用したαs-カゼインの固定が可能であることが示された。今後,C-(EEL)_<10>-SsrAのAu(111)表面およびシリコン基板上への固定化を行い,レールとなる基質タンパク質を表面に固定した基板の作成について検討を行う。
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