本年度は昨年度試作した時間分解X線吸収微細構造測定システムを用いて、レーザー励起に伴うイオンの酸化数の変化を捉えることを試みた。対象とする試料はヨウ素アニオン(I^-)を含む水溶液とし、この水溶液膜表面にフェムト秒レーザーを単レンズを用いて集光照射することでプラズマ生成を誘起した。さらに水溶液膜の裏面に遅延時間をもって高強度のフェムト秒レーザーパルスを対物レンズを用いて集光照射しパルスX線を発生させてプローブ光とし、水溶液表面で誘起されるであろうI^-の酸化数の変化をヨウ素のX線吸収端(4.9keV)付近の微細構造の変化として捉えることを試みた。 励起光照射の有無で比較した差スペクトルを求めたところ、遅延時間0psではほとんど何の変化も観測されなかった。一方、遅延時間4psではヨウ素のX線吸収端近傍に限り差スペクトル強度の減少が観測された。これはプラズマ生成に伴ってI^-がI、もしくはI^+へとイオン化が進み、ヨウ素の酸化数が増加することによってX線吸収端が高エネルギー側にシフトしたためと考えられる。 こうした実験結果は世界的に見ても例が極めて限られており、今回のように水溶液をパルスX線光源に用いた例は皆無である。今回デモンストレーションとしてではあるが、時間分解X線吸収微細構造測定に成功したことは極めて意義深いと考えている。様々な塩を溶かすことができる水溶液を光源とすることで、様々な試料と対象とすることが可能となり、時間分解X線吸収微細構造測定の汎用化に一歩前進したと考えている。
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