X線偏解消子は、(1)X線移相子としても利用できる、(2)無偏光に対する光学効果の測定には不可欠である、(3)試料の直前に設置すれば使用可能で、既存の実験装置に容易に導入できる、といった特長があり、物性物理学、構造生物学をはじめ様々な分野への応用が期待できる。そこで、本研究において、透過型X線移相子(ダイヤモンド単結晶)を用いてX線偏光解消子を開発し、磁気カイラル効果の検出や多波長異常分散法へ応用を行った。 先ず、X線偏光解消子の性能をX線エリプソメトリーによって評価した。評価のための光学系は、上流から、X線偏光子、X線偏光解消子、X線移相子、X線検光子、の順に配置した。X線のエネルギーは3d遷移金属のコバルト(7.7 keV)のK吸収端近傍で行った。評価の結果、0.3mmのダイヤモンド単結晶を用いて、直線偏光度で約100%を5%以下に解消することが分かった。 次に、キラルな強磁性体リチウムフェライトLiFe_5O_8を用いて、ロックイン法で磁気カイラル効果の検出を試みたが検出できなかった。しかし、完全な直線偏光を用いた方向二色性の測定では、磁気カイラル効果の有意な吸収率の変化を検出した。 多波長異常分散法にはタンパク質中のイオウを重原子のセレンに置換したものが広く用いられている。ところが、セレンのK吸収端(12.7keV)はX線移相子が通常用いられるエネルギー(4〜9 keV)よりも高い。そこで、このエネルギー領域でX線偏光解消子としての機能をエリプソメトリーによって評価した。評価の結果、X線移相子としては機能困難な厚さ(0.4mm)でも、X線偏光解消子として機能することが分かった。 また、直線二色性を有する異方性物質のX線吸収微細構造(XAFS)で、開発したX線偏光解消子を用いれば、容易に平均X線吸収係数を測定できることも確認した。
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