既存の極低温走査型トンネル顕微鏡(STM)と液体窒素冷却CCD検出器とダブル分光器を組み合わせて、極低温STM探針増強ラマン分光システムを構築した。Au(111)基板上に単層カーボン・ナノチューブ(SWNT)を分散吸着させた試料に対して、STM探針増強ラマン分光計測を行った。試料は、クロロホルム中にSWNTを均一に超音波分散させた溶液を基板上に滴下後自然乾燥させることにより作製した。溶液の濃度及び滴下量の調整を行うことで適当な密度のSWNTを基板表面上に分散させることができるようになった。STM探針はAu線(φ0.4mm)を飽和食塩水で交流電解研磨することにより作製した。電解研磨に使用した電解液の(1)pHを6.8程度に、(2)温度を20℃以下に保つように調整することで、先端曲率半径が50〜60nm程度のAu探針が再現性よく作製できるようになった。このようにして作製した試料とAu探針を超高真空極低温STMに導入し、SWNTのSTM探針増強ラマン散乱を観測した。実験はベース圧力5×10^<-11>Torr以下の超高真空中で試料と探針を79Kに冷却して行った。STM像観測により孤立したSWNTバンドルを見つけ、分子上に探針を固定した状態でSTM探針増強ラマンスペクトルの測定を行った。ラマン分光測定にはTi : Sapphireレーザー(波長785nm、パワー〜5mW)を用いた。試料-探針間隙にレーザー光を照射してSWNTのG-band(〜1590cm^<-1>)のラマン散乱強度の試料-探針間隔依存性の測定を行った結果、STM探針がリトラクト領域(試料-探針間隔=9μm)にある場合に比べて、トンネル領域にある場合には約2.3倍に散乱強度が増倍されていることが観測された。また、異なるAu探針-試料の組み合わせの場合、5.5倍の増強度が観測された。
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