GaInPを有機金属気相成長(MOVPE)法でGaAs(001)基板上に成長させると、<111>方向に自然超格子構造が形成されることが知られている。近年、自然超格子GaInP/GaAs界面において混晶化や電荷の蓄積が起こることが指摘された。本研究では、自然超格子を形成したGaInPとGaAsのヘテロ界面に誘発された界面2次元電子ガスの起源と界面近傍での電子状態の変化を明らかにするために、光学的測定手法による実験と詳細なバンド計算を行った。そして、結晶対称性の変化が引き起こすユニークな物性変化を明らかにした。 フォトルミネッセンス測定においては、構造変化が起こっているのはGaInP層であるのにも関わらず、GaAsからの発光のスペクトル形状も自然超格子構造形成によって大きく変化した。新しく観測された発光は、高濃度な2次元電子蓄積によるフェルミ準位の伝導帯との縮退が起因した信号であることを明らかにした。また、ヘテロ界面に垂直な静磁場下において、2次元電子蓄積に起因した明瞭なシュブニコフード・ハース振動を観測することに成功した。界面内部電界の大きさは自然超格子の形成度合いとともに大きくなることを見出した。また、ラマン散乱測定においては、電子蓄積に起因したGaAsの光学フォノンの近傍にプラズモン-フォノン結合モードを観測し、蓄積電子濃度の自然超格子形成度合い依存性が従来報告されていた電気測定によるものとは異なった傾向にあることを見出した。そして、これらの実験結果を裏付けるために、半経験的な手法でバンド構造計算を行った。その結果、自然超格子構造形成による界面2次元電子ガスは、その電荷量だけでなく空間分布も大きく変化するということを示した。これらの結果は、GaInP系電子デバイスをアレンジするための重要な知見になるものと位置付けることができる。
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