本研究の目的は従来の走査型トンネル顕微鏡(STM)では原理的に不可能とされている絶縁体表面の原子観察および電子状態の評価を可能とするマイクロ波走査型トンネル顕微鏡(AC-STM)を開発し、高温超伝導体の母物質や超低ドープ領域においてドーパントおよびキャリアが空間的にどのように分布し、超伝導を発現させていくのかをナノスケールで直接観察することである。 今年度は超伝導状態を含む強相関電子系の特異な物性を観察する上で必要不可欠な極低温、磁場中、超高真空環境下での測定が可能なSTM装置の立ち上げに従事し、最低到達温度T=430mK、最大磁場11T、超高真空10^<-10>Torrで安定に動作させることに成功し、新たに以下の成果を得た。 ペロブスカイト型構造をもつルテニウム酸化物Sr^<n+1>Ru_nO_<3n+1>は最も次元性の低いSr_2RuO_4(n=1)ではスピン3重項超伝導が発現し、また3次元的なSrRuO_3(n=∞)は遍歴強磁性体として知られている。両者の中間に位置するSr_3Ru_2O_7(n=2)は強磁性極近傍にある常磁性体であり、外乱(磁場、圧力、不純物など)を加えることにより強相関電子系特有の相制御劇的な電子状態変化)を実現できる系である。それらの相転移に伴い、電子状態が原子レベルにおいてどのような変化を遂げるか非常に興味深い。上記の装置を用いて、この物質における初めての原子観察に成功し、さらにメタ磁性転移に伴うフェルミ準位近傍(数meV)の状態変化をとらえ、また不純物添加に伴い軌道状態が劇的に変化することを明らかにした。 今後、これらの結果をまとめ、AC-STMの開発に着手する。
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