研究概要 |
走査型トンネル顕微鏡(STM)は試料表面の電子状態を原子レベルの空間分解能で測定できるため、幅広い分野に適用されている。本研究では、測定量であるトンネル電流を従来の直流ではなく、マイクロ波領域の交流にすることにより、単一スピン検出および絶縁体に対する測定を実現し、強相関電子系が示す様々な現象において鍵となる競合する電子相境界近傍の局所電子状態を明らかにすることを目的とした。以下に成果を列挙する。 1.従来型のSTMユニットを改良し、安定度の向上に成功した。 長時間に渡る安定したSTM測定を実現するためには、STMユニットの剛性をできるだけ高くし、振動ノイズの影響を受けないようにすることが重要である。また、これを研究室が所有する低温超高真空STMに取り付けることによって、強相関電子系の物性を調べる上で必要不可欠な極低温、強磁場環境下での測定を可能にした。 2.量子相転移に伴う状態密度変化の測定に初めて成功。 量子相転移は、熱ゆらぎに起因する古典的な相転移とは異なり、量子ゆらぎを駆動力とするため、様々な量子性の顕在化が期待される。上述の装置を用いて、磁場による量子相転移をまたいだ、究極の空間分解能である同一の原子上での高エネルギー分解能スペクトロスコピーに成功し、これまで提唱されてきた単純なゼーマン効果に基づくモデルとは完全に異なることを明らかにした。 3.交流走査型トンネル顕微鏡対応インサートの作製。 インサートの作製で時間切れになったが、1,2を実現する上で得た工夫を取り入れることにより、今後安定した交流型STMを実現できると確信している。
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