研究概要 |
人間の肌色は主に,表皮(厚さ約0.1mm)におけるメラニン色素,真皮におけるヘモグロビン色素で構成されている.さらに,毛穴やキメの凹凸により生ずる陰影が加わって,様々な肌の色やテキスチャー・透明感が生み出されている.1999年に申請者らは,独立成分分析を用いて,肌画像からメラニン色素成分分布,ヘモグロビン色素分布を分離抽出する技術を考案した.さらに,2003年には,陰影成分も分離計測することを可能にした.これにより,抽出された成分分布を画像処理により変化させ,再び合成することにより様々な見えの顔画像を合成することができた.さらに,この手法は,その簡便さとロバスト性から色素成分の分離計測技術としても化粧品業界で実際に利用されはじめている.しかし,現在の解析手法では肌色に関する経験的な濃度空間線形モデルを用いているため,抽出された成分量は定量的な値ではなく,抽出された成分の相対的な空間分布を得るのが限界であった.そこで,申請者は本研究において,まず独立成分分析により抽出された色素成分・陰影成分と各色素の吸収係数・散乱係数等の物理量との関係を平成16年度に明らかにした. 平成17年度は,平成16年度に提案した拡散反射モデルに対してまず一層ファントムを用いて評価し,また,これまでの独立成分分析で抽出された成分の対応をとる手法を開発し,抽出された成分の定量性を確保した.具体的には,積分球を用いた拡散透過,透過,拡散反射測定装置を用いて光学特性が予め測定された一層ファントムに対して上記モデルの妥当性を検証した.一層ファントムは保存の容易性を考慮した.肌のファントムの作成には,非常に多くの単純な試行錯誤が必要であったため,研究補助を充実させて作業を効率化した. 定量化のためには色素成分量が0を正確に較正する必要がある.従来の手法では,最も色素成分の少ない点を,色素成分量が0として用いていた.本研究では,参照反射板を用いた色素成分の0点較正法を確立した.参照白色板と皮膚組織の構造の違いによる影響をモンテカルロシミュレーションとファントム実験により評価し,補正係数を与えた較正法を開発した.
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