本年度の研究では主に試料作製・極性評価技術の確立を目指した。結晶成長にはMBE装置を用い、この際消耗品明細に記した結晶成長原材料とサファイア基板を使用した。本装置にはRFプラズマ励起活性窒素源に加えて、差動排気機構付き反射高速電子線回折(RHEED)装置を装備しており、結晶成長後の表面再構成構造により、まず巨視的な格子極性を判定した。具体的には、(a)サファイア基板上に直接GaNを成長した場合、成長後のRHEEDパターンは(4×4)再構成構造を呈し、N極性が支配的なGaNエピタキシャル膜が得られたのに対して、(b)700℃における高温窒化ならびに(c)AlN緩衝層を挿入することで(2×2)再構成を示し、Ga極性膜が得られることが確認された。KOH水溶液によるエッチング耐性を併せて評価したところ、得られたGa極陸膜の中でも(d)AlN緩衝層を挿入し800℃程度の比較的高温で成長したGaNのエッチング耐性が特に優れることから、反転ドメインや貫通転位欠陥の発生が少ないことを示しており、今後の素子応用の観点からもより高温での成長による欠陥低減が必須である事が明らかとなった。一方で、高品質なN極性膜を得るのは通常困難であるとの報告が多いが、本研究においては(e)200℃において低温窒化したサファイア上にGaNを製膜したところ、N極性を示す(6×6)再構成構造を呈し、これまで報告のある直接成長したN極性膜(a)よりもグレインサイズが顕著に増大することが新たにわかった。加えて(e)はKOHによるエッチング速度が特に速いこと、またその際明確な(10-11)面からなる六角錘状の島が形成されることから、反転ドメインが少なく、より高品質なN極性膜が得られることがわかった。以上より、RF-MBE法によりGa・N両極性のGaN薄膜をそれぞれ再現性良く製膜する条件を確立することができた。
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