近年我々が開発した不揮発性ホログラム記録材料であるRu : Fe : LiNbO_3結晶は、(1)高い記録感度、(2)可視光領域でのゲートと記録が可能、(3)定着時のホログラム消去率が小さい、などメモリー材料として魅力的な特徴を有している。一方でこれまでの記録機構では説明のつかない現象も見つかっており、従来とは異なる新しい記録機構によって不揮発性ホログラムが記録されている可能性が示唆されている。本研究ではこのRu : Fe : LiNbO_3結晶におけるフォトリフラクティブ特性及び記録機構を明らかにし、新しい不揮発記録機構のモデル化と、この材料系のさらなる性能改善を目的としている。 LiNbO_3結晶にドープされたRuイオンに関する報告はこれまでほとんどない。そこで本研究ではまず、基礎物性の測定とモデルの構築に力を入れ研究を行った。具体的には、光起電力電流を青から緑のスペクトル領域で測定し、Ruイオンの光起電力係数を初めて見積もった。一方で、530nm付近に存在する吸収ピークの起源に関する知見も得ることができた。また、2準位モデルを仮定し、フォトクロミズムの過渡応答の測定から、Ruイオン固有のパラメータである再結合定数、光吸収断面積などを見積もった。その結果RuイオンはFeイオンと比べ非常に大きな再結合定数を持つことがわかり、不揮発性ホログラムの定着時にホログラム消去率が小さい理由がRuイオンの大きな再結合定数に由来することが示唆された。これら二つの実験によりホログラム記録のシミュレーションに必要なRuイオンの物質パラメーターはすべて得ることができ、得られたパラメータを用いて不揮発記録のシミュレーションを行ったところ、実際の実験結果とよい一致がみられ、今回得られたパラメータの妥当性が示された。
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