本研究は、レーザーフォトカソードRF電子銃システムにより生成した高品質電子ビームとNd : YLFレーザーによるレーザーコンプトン散乱を用いて『水の窓』領域の軟X線を発生させ、卓上軟X線源としての小型化、安定化、高輝度化を行い、生体観測用軟X線顕微鏡への応用を目指すものである。実際の実験では、エネルギー約4.6MeV、パルス幅約10ps(FWHM)の電子ビームと波長1047nm、パルス幅約10ps(FWHM)のNd : YLFレーザーを約20度の角度で衝突させ、レーザーコンプトン散乱により約370eV『水の窓領域』のピコ秒軟X線パルスを生成実験を行った。この実験では、直径数10〜数100μm、パルス幅10ピコ秒(3mm)程度の電子ビームとレーザーとの衝突であるため、空間的・時間的同期が極めて高い精度で要求される。そのため、衝突点には独自に開発した片面アルミ蒸着のピンホール付石英ガラス同期モニターを電子ビームに対し約35度の角度で挿入し、電子ビームのチェレンコフ光とレーザーを同時に、同じ光検出器で測定することにより、高い精度での衝突に成功している。更には、電子ビーム励起用レーザー(262nm)の基本波(1047nm)を衝突用レーザーとして用いることにより、X線生成の安定化、X線源の小型化(2×2m^2)に成功している。そして、高輝度化を行うため、付加的なフラッシュランプ励起レーザー増幅装置を製作し、これまで約2×10^4photos/pulseのピコ秒軟X線パルスの生成に成功している。今後は、生成した軟X線とX線CCDを用いた固体サンプルのラジオグラフィーを行っていく。さらには、高感度レジスト材とAFM(分子間力顕微鏡)を用いた撮影法の研究も進めており、生体試料のラジオグラフィー及び、ナノメートルの分解能を持った軟X線顕微鏡の開発を目指していく。
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