研究概要 |
本研究は,実際の交通事故を模擬した負荷に対する膝関節靭帯の耐性を明らかにし,歩行者下肢傷害シミュレーションモデルの傷害再現精度の向上を図ることを目的とする. 平成16年度では,家兎大腿骨-前十字靭帯-脛骨複合体(FATC)の下肢長軸方向引張,左右せん断,前後引出し負荷に対する荷重-変位特性を実験的に検討した.下肢長軸方向引張負荷試験を実施した結果,変位速度の増大に伴い破断荷重,破断変位および接線係数は顕著に増加した.左右せん断負荷試験では,破断変位,接線係数は変位速度によらずほぼ一定であった.前後引出し負荷試験では,変位速度が遅い領域で破断荷重と接線係数が変位速度に伴い増加する傾向がみられたが,高変位速度ではその傾向はみられなかった.破断変位は変位速度の影響を受けなかった.前後引出し負荷に対する破断荷重は,他の条件よりも高い強度を示した.これは,前十字靭帯が脛骨の前方逸脱防止に適した配向,付着様態を有しているためであると考えられる.一方,左右せん断負荷に対して最も低い強度であったことから,左右せん断負荷によりACL損傷が発生しやすいと考えられる.これは歩行者事故を模擬した屍体実験の結果と合致する.また破断荷重は変位速度依存性を示したが,左右せん断負荷に比べて,前後引出し負荷の方が変位速度変化による破断荷重の増加率が高かった. 従来の歩行者下肢傷害評価シミュレーションモデルの精度向上を図るため,膝関節の形状再現精度,適用する要素,材料モデルの精度が膝関節傷害予測精度に及ぼす影響を検討した.従来モデルの特性の傾向をパラメータスタディにより確認し,実験の再現精度を検証するため,家兎膝関節部の実形状モデルを構築した.今後,実験の境界条件を再現した解析を異なる形状再現精度,要素,材料モデルを用いた解析を実施し,適切な膝関節モデリング方法を検討する.
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