研究概要 |
本研究では,代表的な結晶性生体吸収性プラスチックであるポリ乳酸(PLLA)を対象とし,アニール処理を施すことにより,結晶化度・結晶サイズを制御し,擬似生体環境中にて力学的負荷下での分解過程を詳細に観察することにより,分解による強度・弾性率の低下のメカニズム及びそれらに及ぼす結晶化度・結晶サイズの影響を明らかにする.以上をもって医療用接合材料としてのポリ乳酸における材料設計の指針を得る. 本年度行ったことは下記のとおりである. ・PLLAのアモルファス体を成形し,ガラス転移点(60℃)以上の温度でアニール処理を行い,結晶化度・結晶サイズを制御した試料を作成した.結晶化度は示差走査熱量計により,結晶サイズは薄片試験片の偏光顕微鏡観察により測定した.以上より,アニール温度・時間が結晶化度・結晶サイズに及ぼす影響を検討し,半定量的な予測モデルを構築した. ・様々な結晶化度・結晶サイズを有する試料に対して,準静的4点曲げ試験を行い,巨視的な特性を取得した.70℃24時間アニールを施したものが最大の強度を有し,アニール温度・時間の増加に伴い,強度が徐々に低下することが確認された.これは,アニール過程においては,初期の段階で残留応力の解放により強度が向上し,それと同時に起こる結晶化の進行により脆化し,このため徐々に強度が低下する.また,弾性率は結晶化度の増加に伴い,増加することが確認された. ・リン酸緩衝液浸漬に1〜16週浸漬させた試験片に対し曲げ試験を行ったところ,曲げ強度・弾性率ともにほとんど変化が観察されなかった.このため,現在さらに長期の浸漬実験を継続中である. ・生体吸収性セラミックスであるリン酸三カルシウム(TCP)を強化材として用いたポリ乳酸複合材料の作成を検討した.TCP含有量の増加とともに曲げ強度は低下するものの,弾性率は増加することが確認された.また,マイクロメカニックス及び損傷力学にもとづく解析を行い,応力-ひずみ挙動の予測を行った.
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