研究概要 |
一般に工業用潤滑油は基油と添加剤の溶液系で,添加剤は金属表面上に分子スケール暑さの吸着膜を形成し,その吸着膜の良し悪しが,境界潤滑性能の大部分を決めると考えられている.しかしその一方で,基油と添加剤の分子鎖長が一致すると良好な境界潤滑状態が得られる(チェーンマッチング現象)という報告があり,流体潤滑下はもちろん,境界潤滑下においても基油の影響を無視できないことがわかっている. そこで本研究では,金属表面間に形成される潤滑膜の初期膜厚を1マイクロメートル程度とし,毎秒1マイクロメートル程度の速度で2面を接近させ,2面の衝突までの膜厚,法線力および表面分離度を同時計測可能なナノレオメータシステムを構築した.そして供試油として,基油に直鎖飽和炭化水素,添加剤に直鎖脂肪酸を用い,それらの炭素数を系統的に変化させて,チェーンマッチング現象に関する実験的検討を行った. その結果,2面間に形成される境界膜は,流体的に振る舞うmobile layerと,金属表面に固着したimmobile layerとに大別でき,mobile layerの見かけ上の粘度は,膜厚が数ナノメートル以下になると,劇的に上昇することが明らかになった.また,immobile layerについてのみ,基油と添加剤の炭素数が一致したとき,2面の衝突直後の耐荷重性能が最大となるという知見を得た,これは古典的な境界潤滑モデルでは考慮されていない,境界潤滑膜に及ぼす基油の影響を微視的な視点から捉えたものであり,より高性能な潤滑油の開発のための一助になると考えられる.
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