研究概要 |
人工軟骨候補材料のpoly(vinyl alcohol)hydrogel(PVAハイドロゲル)-ガラス平板を摩擦させることにより,表面上に吸着した蛋白質膜を蛍光染色を通して観察を行った.潤滑液に生体関節液に含まれるアルブミンとγ-グロブリンを種々の条件で添加し,それぞれの摩擦摩耗に対する役割について調査を行った.アルブミンはγ-グロブリンと比較し吸着力が弱いため,低せん断層を形成することで低摩擦を,γ-グロブリンは摩擦面材料に強固に吸着するため摩耗保護の機能を持つと考えられた.低摩耗を示した蛋白質総濃度2.1wt%アルブミン/γ-グロブリン比(AG比)2/1の潤滑液条件では,潤滑液に含まれる蛋白質であるアルブミンとγ-グロブリンは摩擦面表面上で交互に層状構造を形成し,それぞれが機能的に作用することで低摩擦と低摩耗を両立させていることが明らかとなった.この機能的な蛋白質潤滑膜を摩擦面上に形成させることによりPVAハイドロゲルの低摩耗化が実現可能である.また,摩耗が観察されたAG比1/1の潤滑液条件ではそれぞれの蛋白質は層状構造を成すものの摩耗保護の機能をもつγ-グロブリンの吸着量が吸着膜下層においてAG比2/1よりも少なく,アルブミンの濃度がAG比2/1よりも小さいためアルブミンによる低せん断層も薄いことが観察された.このために摩耗が進行したと考えられた.さらに,蛋白質を添加することにより摩耗が増加する条件(蛋白質総濃度2.8wt%,AG比1/1)では吸着蛋白質は層状構造を形成せず,明確にアルブミンとγ-グロブリンが相分離した状態で吸着していた.このためアルブミンによる低せん断層もγ-グロブリンによる摩耗保護層も機能することなく逆に凝着による摩耗が進行したと思われた.
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