研究概要 |
キャビテーション発生時には,キャビティ周囲の流体が液体から気体への相変化に伴う蒸発熱を奪われるためその温度が低下し,それに伴う飽和蒸気圧の低下によってキャビティの成長が抑制される.この現象はキャビテーションの熱力学的効果として知られているが,その詳細はまだ解明されておらず,特に非定常流れにおける熱力学的効果の果たす役割は明らかにされていない.本研究は非定常流れにおけるキャビテーションの熱力学的効果の解明を目的とし,本年度は,(1)第一近似としてキャビティ内流動を無視した熱力学的効果の解析を行い,さらに熱力学的効果のモデリングに不可欠である(2)キャビティ内外の流動構造の実験調査を開始した. (1)特異点法によるキャビテーションの熱力学的効果の数値解析 申請者らが開発してきたキャビテーション流れの特異点解析法に,蒸気相と液相の熱力学的平衡と蒸発・凝縮潜熱の液相内熱伝導に基づいて熱力学的効果をモデル化したものを組み込み,まずはキャビティ内外の流れが同じであるという仮定の下で,定常・非定常解析を行った.定常解析では,解析結果は既存の実験結果と定性的に良好に一致し,本モデルの有効性・妥当性を示した.また,非定常解析では,熱力学的効果が旋回キャビテーションなどの不安定現象の周波数や発生限界に与える影響について明らかにした. (2)空気吹き込みによる翼面キャビテーションの模擬実験 キャビテーションの熱力学的効果のより厳密なモデル化にはキャビティ内外の流動構造の解明が重要である.そこで,空気吹き込みによる翼面キャビテーションの模擬が可能となるよう,前縁にスリットを有する供試翼を製作して現有する回流水槽に組み,実験を開始した.現在は,レーザーシートによる模擬キャビティの形状観察およびLDVによる外部流れ計測を行っている段階であり,キャビティ内外流れの解明に向けて次年度も継続して実験を行う.
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