燃料電池用固体高分子膜内の水素極・酸素極での水分濃度にイオン伝導度は強く依存し、発電性能が影響を受ける。この高分子膜内の水分量計測を高空間・時間分解で計測するためにマイクロRFコイルを用いて局所計測を行えば、膜内水分濃度が短時間で計測できる。PEM内含水量のリアルタイムモニタリングを開発目標として、小型表面コイルにより核磁気共鳴(NMR)信号を受信し、PEM内の局所含水量を短時間で計測できる手法を開発した。 燃料電池の始動時や負荷変動時にはPEM内の輸送現象が過渡的に変動する。その現象の時定数は1〜10秒のオーダと推測されている。PEM内輸送現象を時間応答性まで含めて把握するには、過渡変動時のPEM内含水量を計測する必要がある。さらに、複数センサーを用いれば、燃料電池内の含水量分布計測が可能となる。 そこで、MEA(Membrane Electrode Assembly)のアノード側とカソード側に二つずつのセンサーを配置して、MEAに直流電圧を印加して水電解運転させた。この場合のNMR信号強度の過渡変動を小型NMRセンサーで捉える試行実験を行った。計測システムは、8系統の独立した送受信系を持っており、8個の表面コイルに励起パルスを同時に送信して、8つのNMR信号を同時に受信・検波できるという特徴がある。8個の表面コイルをMEAに貼り付け、含水量を8点同時に計測できるマルチNMRセンサー計測システムを製作した。 MEAに直流電圧を印加して、アノード側とカソード側で取得されたエコー信号強度の時間経過を取得した。エコー信号強度と含水量が正の関係にあるとし、エコー信号の挙動を調べた。その結果、アノード側では電気分解と電気浸透流によってPEM内の含水量が早く減少し、カソード側では電気浸透流によって一旦は含水量が増加するが、その後は徐々に減少していく様子が本計測システムで捉えられた。このセンサーの開発により燃料電池内のリアルタイム計測と制御へと展開できる基礎を築いた。
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