微小空間の物理特性を利用した分析、合成細胞実験などのマイクロ化学システムを実現してきた。しかしながら、さらに高度な化学プロセス集積化には、マイクロポンプなどの流体駆動デバイスの集積化・高機能化が必須である。従来は電力を用いた機械的アプローチが主流であったが、現在の作製技術Micro Electro Mechanical System (MEMS)ではサイズ的・機能的な限界があり、MEMSを利用することから脱却した新しい発想が必要と考えられる。このような発想の一つとして、化学エネルギーのみで駆動する生体分子モーターのアクチュエータとしての利用が考えられるが、これは単独では大きさが10nmオーダー、発生力が数pNと小さいため、マイクロサイズでの利用は難しい。そこで、本研究では一個の大きさが10μmオーダーであり、発生力がμNオーダーである心筋細胞の運動機能に着目し、マイクロアクチュエータの駆動素子として利用することを提唱する。これにより、微小空間での構造物や流体の駆動といった力学的機能集積化が可能となる。本デバイスは、細胞による化学エネルギーから力学エネルギーへの高効率変換機能を利用するという点、さらに細胞という柔軟な生体材料を利用するという点が画期的である。 以上をふまえ、本研究の目的は、心筋細胞の機能を利用したバイオマイクロアクチュエータの創成とする。今年度は、心筋細胞を用いたマイクロ構造物の駆動および心筋細胞組織を用いたマイクロポンプを実現することにより、バイオマイクロアクチュエータの高集積性および流体駆動・送液機能を検証した。心筋細胞の機能を利用したバイオマイクロアクチュエータの創成に成功した。今後、電源なしで自立して微小物の運搬、送液、攪拌などの機能を果たすデバイスとして、マイクロ化学分野への幅広い応用が期待される。
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