近年、無線通信の急速な普及に伴い、電磁波の人体に与える潜在的な影響が懸念されている。そのため、国際機関ICNIRPをはじめ、様々な公共機関が電磁波防護に関する安全基準の作成を行っている。それらの安全基準によると、マイクロ波帯における安全性の指標としては「1gあるいは10gあたりの局所ピークSAR(比吸収率;単位質量当たりの吸収電力量)」が用いられている。しかしながら、マイクロ波曝露による直接的な影響は、現在のところ「電力吸収に伴う温度上昇」が支配的とされている。具体的には、脳内の温度上昇が4.5℃以上上昇すると物理的損傷を起こす、あるいは皮膚の温度が10℃以上上昇すると刺激痛を伴うなどが報告されている。このことから、携帯電話使用時に人体頭部に吸収される電力と温度上昇の関係を調べた報告がいくつかなされている。この種の問題に付随して、イギリス健康防護庁より「乳幼児の携帯電話を控えるように」との警告が出されている。しかしながら、成人と子供を区別する根拠は、医学的にも物理的にも示されていない。従って、この問題を物理的見地から定量的に評価することは、安全基準を作成する上で非常に重要となる。 本申請では、厳密な乳幼児頭部モデルを構築し、それらのモデル近傍に携帯電話を配置した場合の吸収電力およびそれに伴うSAR及び温度上昇の相関について評価した。特に、成人モデルに対する結果と比較し、成人と子供には大きな差異はないという知見を得た。また、生体内の熱輸送を支配する方程式に対し、グリーン関数を用いて定式化し、物理的観点から考察することにより、その妥当性について議論した。
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