今年度は以下の2点について研究をすすめた。 1.半導体超格子中のミニバンド間ジナートンネル効果とテラヘルツゲインへの影響 GaAs/AlGaAs超格子構造について、電気光学(EO)サンプリング法を用いた時間分解テラヘルツ(THz)-EO分光法により、ブロッホ振動電子のダイナミクスを調べた。第1および第2ミニバンドの間隔(ミニギャップ)の狭い試料では、ある印加電界を超えるとブロッホ振動電子がこの2つのミニバンド間でトンネル(ミニバンド間ジナートンネル効果)を起こす。しかし、ジナートンネルが起きる電界以上でも1THz以上の利得帯域が得られることが分かった。さらに、ジナートンネル領域では、微分抵抗のDC成分が正になっていることが確認され、ミニバンド間ジナートンネル効果を用いることにより、高電界ドメインを回避しつつ利得を実現できる、すなわち超格子構造のテラヘルツ発振器・増幅器への応用可能性を示すことができた。 2.GaAs/AlGaAs系テラヘルツ帯量子カスケードレーザの作製・評価 量子カスケード構造を用いたテラヘルツ帯光源をウェハの作製から特性評価まで一貫して行った。分子線エピタキシー法により作製したGaAs/AlGaAs系phonon-depopulation型量子カスケード構造についてX線回折法を用いて結晶構造評価を行った結果、急峻な界面が得られていることが分かった。さらに、レーザ素子を作製して発光特性を評価したところ、国内初のテラヘルツ帯レーザ発振(ピーク周波数~3.4THz)を得ることができた。また、量子カスケード構造の周期数を増したものについては、パルス駆動ながら25mW以上の出力を得ることができ、また最高動作温度も120K以上になることが分かった。
|