研究概要 |
残響は室内壁面に繰り返し反射された音が音源からの直接音に積み重なったものである.この反射音は音に広がりや奥行きを与え,高臨場感通信や仮想現実感(Virtual Realty)システムではこの特性を人工的に付加することが求められている.しかし,音声認識や拡声会議通話では,室内反射音は音源波形に歪みを与え音源波形の特徴を埋もれさせる.そのため,室内音場で観測された残響波形から原音声を回復する逆フィルタ処理が検討されている.このような送受音関係が成立する音場では線形システムで近似できることが明らかになっている.このような線形システムにおける逆問題,すなわち,観測信号から音源信号を推定する問題では伝達系の推定が必要である.しかし,伝達特性は一般に時変系であるため,適応的な推定を必要とし,逆フィルタ処理による音源波形復元は実用的には難しい.そこで,本研究では,残響音場伝達関数の正確な逆フィルタリングを施すことなく,残響波形から音源波形の特徴を回復する可能性を検討した.まずMTFの理論に基づき音声信号を変調雑音信号でモデル化し観測点で統計的にその変化を数学的に解明する.実時間処理を踏まえて,室内インパルス応答を測定することなく残響波形から音源波形を回復するため,残響時間情報を用いたパワーエンベロープ逆フィルタリング処理について検討した.観測された残響波形のパワーエンベロープ(2乗包絡線)は,原波形と室内インパルス応答の各パワーエンベロープのたたみ込みによって表わされることを示し、さらに原波形のパワーエンベロープが観測信号のパワーエンベロープに対して室内インパルス応答パワーエンベロープの逆フィルタリングによって復元できることを示した.
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